「浅草タワー」は浅草の景観を破壊したか?

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昨年、浅草の景観論争を巻き起こし、建設許可取り消しを求める訴訟まで起こされた高層マンション「浅草タワー」が、早くも8~9合目あたりまで組み上がり、浅草の街の「一部」にその威容を観し始めました。

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国際通りからみた「浅草タワー」。手前は「浅草国際劇場」跡に1985年完成の浅草ビューホテル。28階建て、108m。

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「浅草タワー」は37階建て、133mなので浅草ビューホテルより25m高いわけで、長らく浅草一の(唯一の)高層ビルだったビューホテルは、その座を明け渡すことになります。こうしてアップでみるとかなり横幅もあって巨大なタワーマンションです。

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浅草寺本堂(観音堂)前から「浅草タワー」方面を臨む。浅草寺をはじめ、建設反対派の論拠のひとつが、「浅草寺の境内からみえる」ということでしたが、実際にはこのように、浅草ビューホテルの後ろにほとんど隠れてしまっています。完成してタワークレーンが撤去されれば、マンションの存在に気づく参拝者や観光客はあまりいないのではないでしょうか?

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本堂西の御影堂や六角堂などがあるあたりに回りこんでみると、さきほどより少し見える面積が増えますが、それでも視野の中ではあくまでビューホテルの脇に控えてる感じで、参拝客に威圧感を与えている印象はありません。個人的には、ビューホテルが1本だけニョッキリと屹立していた時より、このくらいの重なり具合で複数の高層ビルが連なっていた方が景観的にバランスがとれ、視覚的な安定感が出てきたようにすら感じます。

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本堂の西側出入り口から。御影堂周辺の木立に遮られてビューホテルとともにほとんど見えません。(それより、個人的には花やしきのフリーフォールアトラクションの鉄塔の方がよほど目障りなんですがw)

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五重塔前から。ビューホテルの影に9割以上隠れてしまっています。

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境内の外に出て、雷門斜め向かいの浅草通り南側歩道から。(手前は雷門の瓦屋根)。雷門周辺で「浅草タワー」がかろうじて見えるのはここだけです。

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「浅草タワー」の姿を求めて浅草の街を徘徊w。吾妻橋をわたって歩道から少しそれた橋の袂からようやく発見。しかし橋の上からはほとんど見えないと言ってしまっていいでしょう。(手前のサラ金ビルの方がよっぽど景観を害していると感じるのは私だけでしょうか?)
「浅草の景観を守れ」をスローガンに訴訟にまで発展して新聞紙上を賑わした論争は一体何だったのでしょうか?

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吾妻橋から1キロちょっと上流の「桜橋(歩行者専用橋)」から臨んだ浅草の街。ここまで離れると、ビューホテルより巨大な建物が浅草の街に出現したことが認識できます。先にも言いましたが、私は、低層の街並みの中に、「野中の一本杉」のように高層ビルが1本だけニョッキリと建っているよりも、適度にバラけながら複数建っていた方が景観的にバランスがとれると考えています(もちろん主観ですが)。

今回建設された「浅草タワー」が高層建築であるがゆえに浅草の景観を害するというのであれば25年前の浅草ビューホテルの建設を阻止していなければ、説得力がありません。そして、いくら浅草が伝統的な街並みを観光資源とする街だからといって、東京の真ん中にある街なのですから、京都や鎌倉のように高層建築を一切禁止することなど現実的ではありませんし、猥雑さも魅力のひとつでもある浅草が、そこまでするほどお上品な街並みをもっているとも思えません(失礼)。だいたい、この写真の撮影ポイントから真後ろに振り返れば634mの鉄塔がそびえているわけですし、そもそも雷門周辺から否応なく視界に飛び込んでくる某大手ビール会社の「黄金ビル」の作り出すインパクトフルな景観はどう位置づければいいのでしょう?

前回のエントリーで、「歴史的建造物や街並みの近隣に高層ビルが建つというだけで条件反射的に“景観破壊だ”と叫ぶのはいかがなものか?」と述べましたが、この件はまさにその典型例で、建設差し止めを認めなかった司法の判断は至極常識的なもののように思えます。今回のケースのような、地元の当事者、利害関係者以外には理解しにくいような「景観論争」が頻発すると、かえって一般の人たちに、本来守るべき景観がなんなのか?ということを見えにくくさせ、観光立国を目指す日本の資産である「都市景観」という概念をますます混乱に陥れる恐れがあるのではないかと憂慮します。

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とは言え、こうしてみると、確かに幅広の巨大なタワーマンションであることは確かで、この場所からの景観に限っていうなら、もう少しスリムにした方が景観上美しかったのではないかと・・・。もう少し冷静で、論理的な景観論争があれば、そういうところに踏み込んで、浅草にとってよりベターなデザインに変えさせることも可能だったのではないか、と残念に思います。

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コメント

  1. 通りすがり より:

    建設反対の人は本当に「景観破壊」だけで反対していたのでしょうか? 逆に、“ごった煮”感が魅力の浅草で、なぜいまさら景観破壊を盾に訴訟まで起こして反対したのか、ということを考えなければならないと思います。

  2. 通りすがり より:

    この裁判は、5階程度までにすると定めた区のマスタープランに反する、という点が焦点になっています。景観の話だけで是非を判断できる裁判ではないと思います。

  3. しろくま より:

    いろいろな角度からの写真、参考になりました。 ありがとうございます。

  4. トンガム より:

    区のマスタープランの是非を争ったということなのでしょうが、実質的には地域エゴのお祭りでした。 年寄りが活気を取り戻してはしゃいでましたよ。 景観を守る?あんたら40年前スペースタワーとか建てて喜んでたじゃん。 クレーマーにはうんざりです。

  5. 地元 より:

    結局、町に活気は戻ってません。 変わったのは、ビル風が強くなったことぐらい。 なんだったんでしょうね。